著:湯浅 誠 出版:岩波新書
を読了。去年の4月に初版だから、結構最近の本。
筆者は、普通に生きているだけではなかなか"見えない"「貧困」は、国の弱体化を示す警鐘であると言う。また、日本社会にありがちな「貧困に陥っているのは自己責任」という論に対する誤りを厳しく指摘した上で、そういった「貧困」を放置・見て見ぬフリをする社会を批判。"すべり台社会・日本"に歯止めをかける必要と、貧困の最大の敵は「無関心」であり、私たちが団結して政府に声をあげていく必要があると主張する。
著者の湯浅誠は東京大学の法学部の出身。貧困の"現場"に自ら立って「反貧困」の活動を展開してきた。著者自身も路上で生活をしていた経験があるという。以前話題になった年越し派遣村の村長だった人だから、知っている人もいるかもしれない。
この本も、著者が現場に立って活動をしてきた人だからこそ書けるものであり、実際に貧困にあえいできた人の話が豊富に取り入れられている。だから、そういった現場の人にしか書けないある種のリアルさと、このままではいけないのだという強い主張を感じられる。特に終章に、筆者の強いメッセージが込められているように感じた。
この本を読んで、僕は少し蒙を啓かれたような気がした。僕たちは、例えば何か事件があったりしても、物事の表面だけを見て、
「酷い人がいたものだね」
「こうなったのは頑張ってこなかったからだろ」
といった論調に陥りやすい。僕もそういう部分があった。
だが、物事はそんな単純なものではないことが多い。本当の原因が、実は筆者の言う「貧困」によるものであることがあるのだなと思った。そのうえで、
"日々の犯罪のニュースに接したとき、しばしばそこには貧困の影がちらついている。それを見ずに「ひどいヤツがいたもんだ」で済ますか、真にそうした悲劇が起こらない社会を目指すか、それは私たち自身の課題である。"(本書P.221より)
ただし、筆者の言う「貧困」とは、単にお金が無いといったことだけを指すのではないということを注意しておきたい。
大人は勿論のこと、もうすぐ選挙権を得る私たちも、読んでおいていい本だと思う。